「感染爆発」でも、派遣社員には許されなかったテレワーク
これに対し派遣会社は、Aさんの意向を踏まえ、4月中は自宅待機で賃金100%補償する方向で調整するとAさんに伝えた。ところが派遣先は、派遣会社の申し出を拒否。結局方針は変わらなかった。
ここで、派遣会社と派遣先に挟まれる「派遣労働」特有の、ややこしい事情が発生してしまう。
この間、まずは自宅待機するよう派遣会社に勧められたAさんは4月21日と22日、出社しなかったところ、Aさんは当然派遣会社が派遣先に許可を取っていたと思っていたが、派遣先はこれを無断欠勤と判断。
この「欠勤」を問題にされ、結果としてAさんは6月いっぱいで雇い止めとなってしまったのである。
「派遣でも対等な人間として認めてほしい」という思いだった。だが、交渉では派遣先も派遣会社もAさんたちの要求を正面から受け止めようとはしなかったという。派遣先は本人の無断欠勤を非難をするばかりで、派遣会社の交渉担当者も「自分たちは上がつくった文章を読み上げることしかできない」という趣旨の発言を繰り返すだけだった(なお、このような派遣会社の行為は労働組合法違反の恐れがある)。
こうした一方的な対応は、コロナ関連で派遣が問題となる中でも、かなり強硬なものだった。当時、総合サポートユニオンではAさんの他にも雇い止めや休業補償をしてもらえない派遣社員が加入し団体交渉を行っており、大半の会社では、ユニオンの要求が実現し、補償がなされていったからだ。
背景には、コロナ下における「非正規差別」に対する世論の反発もあっただろう。この時期、同様の交渉は全国各地の労組と企業の間で行われ、会社側も歩み寄る中で妥協が実現していたのである。
これに対し、エキスパートスタッフはユニオンの要求を一切聞き入れようとしなかった。それどころか派遣先も派遣元も、団体交渉で、「在宅勤務にこだわった・度重なる要望をした」「2日間休んで仕事に穴を開けた」などと、Aさんを非難することに終始したという。
2度目の緊急事態宣言でも繰り返されるテレワーク差別を受けて提訴
そうした中で、「やはり、テレワーク差別は許せない」という気持ちを強めたAさんは会社を提訴することを決意した。以下はAさんから筆者に寄せたメッセージの一部だ。提訴に至った切実な思いを読み取ることができる。
「労働者派遣制度は、今回のような災害時に、派遣労働者を、有無をいわさず真っ先に差別して、路頭に迷わせても構わない、という身分制度のようなものなのでしょうか? もしそうであるなら、労働者派遣制度の存在自体が、おかしなものです。 両社の責任を、追及したいと思います。 派遣労働者も、感染対策や雇用の継続が必要な、社員と同じ人間です。 私のようにテレワーク差別に遭ったり、派遣切り・雇止めに遭っているみなさんは、ぜひユニオンに相談してください。一緒に闘っていけたら嬉しいです」。
「労働者派遣制度は、今回のような災害時に、派遣労働者を、有無をいわさず真っ先に差別して、路頭に迷わせても構わない、という身分制度のようなものなのでしょうか?
もしそうであるなら、労働者派遣制度の存在自体が、おかしなものです。
両社の責任を、追及したいと思います。
派遣労働者も、感染対策や雇用の継続が必要な、社員と同じ人間です。
私のようにテレワーク差別に遭ったり、派遣切り・雇止めに遭っているみなさんは、ぜひユニオンに相談してください。一緒に闘っていけたら嬉しいです」。
雇用形態を理由に派遣社員を差別することは違法
こうした中で今回の裁判は、重要な問題を社会に投げかけているといえよう。
そして、今回問題となっているAさんの事例は、氷山の一角に過ぎないものと思われる。職場から差別をなくしていくためには、一人一人の労働者が声をあげられるように、さらなる世論の高まりや具体的な支援が求められている。